コラム

【最新版】新制度「育成就労制度」とは?技能実習生・特定技能実習制度の改正の概要

技能自習制度

2024/9/30
2024/10/1

2024年6月14日、政府は技能実習制度を廃止し、新制度となる「育成就労制度」を創設しました。
これにより失踪問題やセクハラ、不法就労などの社会問題を改善する効果が期待されています。現在、技能実習制度で外国人を雇用している企業は、新制度によってどのような対応を取るべきなのでしょうか。
本記事では、育成就労制度の概要や技能実習制度が廃止される背景について解説します。

新制度「育成就労制度」とは?


新制度である「育成就労制度」とは、外国人材のスキル向上とキャリア形成をサポートし、日本で長期的に就労できるようにする制度です。
1993年に開始された技能実習制度の問題点を改善した制度となります。

「育成就労制度」は、2022年12月から16回にわたっておこなわれた「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の結果、次の流れで成立しました。

①2023年11月:法務大臣に提出された最終報告書で、制度創設が提言
②2024年2月:政府が育成就労制度の設立方針を決定
③2024年3月:技能実習制度を廃止して新制度を導入する改正法案が国会に提出
④2024年6月:参議院本会議で可決・成立

この新制度は、外国人材が日本で働きながらスキルを高め、より高度な職種や業界でキャリアアップを図ることを支援します。
主な目的は、人材確保と人材育成になっており、3年間の期間を経て特定技能1号まで引き上げることです。

特に、日本語能力の習得や転籍の柔軟性が強化され、外国人材の労働環境も大幅に改善されることが期待されています。

育成就労制度により企業が得られるメリット

育成就労制度によって企業が得られるメリットは以下のとおりです。

・日本語能力が高い人材を受け入れ可能
・長期的に外国人材を雇用できる
・人材不足の解消につながる

日本語能力が高い人材を受け入れ可能

育成就労制度では、来日前にN4相当以上の日本語能力が求められるため、コミュニケーションを取りやすい外国人材を受け入れできます。

これにより、職場での指示の理解や同僚との意思疎通がスムーズになり、業務効率の向上に期待ができます。顧客対応が必要な場面でも、外国人材が活躍できるかもしれません。

日本語が身に付くと、日本の文化や習慣への理解が深まるため、職場環境への適応も早いです。チームワークの向上や、職場の活性化にも貢献します。

これらの結果として、多様な背景を持つ人材が協力することで、新しいアイデアや視点も生まれ、企業の成長につながるかもしれません。

※【N4相当の日本語能力とは】
N4とは、日本語能力試験のレベルの一つです。日本語能力試験では、筆記とリスニング問題をとおして、日本語の理解力を測ります。
試験N4合格者の言語能力は、次のとおりです。

読解力 ・日常生活で使われる基本的な表現や文章を読み、理解できる。
・職場のメールの内容は、理解できるレベル。
聴解力 ・日常的な場面での会話、基本的な指示を理解できる。
・簡単な雑談も理解できるレベル。

長期的に外国人材を雇用できる

育成就労制度の在留期間は、原則3年間であり、最長5年の技能実習制度よりも、2年ほど短いです。

ただし育成就労制度は、3年間で「特定技能1号」のレベルまで育成することを目指します。

「特定技能1号」の資格を取得できれば、「技能実習制度」よりも、長期的な就労が可能です。加えて、特定技能2号に合格すれば、永住権も得られます。

これにより、企業側は長期的な人材育成プランを立てられ、キャリアパスも設計しやすくなります。外国人材も、安定した雇用環境でキャリアを積めることで、モチベーションが向上するかもしれません。

結果として、離職率の低下や採用・研修コストの削減が期待でき、企業の人材戦略に大きく貢献するでしょう。

人材不足の解消につながる

育成就労制度は、日本の深刻な人材不足問題に対する有効な解決策となります。

技能実習制度は実習生という立場である外国人に対して、受け入れ先が過酷な労働を強いる現状があります。これは人材不足が原因であり、日本人よりも低賃金な外国人材を求める企業が多い側面があったからです。

育成就労制度は人材不足の解消に焦点を当てています。

受け入れ先は実習生としてではなく、労働者として外国人材を受け入れることが可能です。結果として、受け入れ先と外国人材の双方でよりフェアな契約を交わせるようになります。

育成就労制度により企業が考慮すべきデメリット

育成就労制度によって企業が考慮すべきデメリットは以下のとおりです。

・負担する費用が増える
・育成した人材が他企業に流出するリスク
・受け入れ可能な職種が少ない

負担する費用が増える

育成就労制度は企業が負担する費用が発生するデメリットがあります。

技術実習制度では実習生だったため、低賃金で雇用できる側面がありました。しかし、育成就労制度では労働者という設定のため、日本人と同等以上の賃金を支払わなければなりません。

また、外国人材の入国に関しても費用を負担する必要があります。

技術実習制度ではブローカーと呼ばれる仲介に対して高額なあっせん料を支払わなければならず、問題となっていました。育成就労制度では、この問題を解消するために受入れ先が入国に関する費用を負担するようになります。

具体的な負担額の割合は定かになっていませんが、労働条件などと合わせて随時決定される予定です。

育成した人材が他企業に流出するリスク

育成就労制度では、一定の条件を満たせば、転職や転籍が可能です。

技術実習制度では原則として転職や転籍が認められていません。育成就労制度が導入されることで、スキルを身につけた外国人材が、他の企業に流出するのではと懸念されています。

例えば、競合にあたる同業他社に転職された場合、自社のノウハウが他社に流出するおそれもあるでしょう。複数の外国人材を雇用している企業では、一度に複数名の外国人材が転職を希望するといった問題も考えられます。

このような問題を最小限にするためにも、以下のような外国人材をサポートする取り組みが求められます。

・適切な待遇
・魅力的なキャリアパスの提供
・働きやすい職場環境の整備
など

受け入れ可能な職種が少ない

育成就労制度は、外国人を「特定技能1号」レベルまで育成することを目指します。そのため、受け入れ可能な職種は、現在の「特定技能制度」と同等です。

特定技能制度は技能実習制度よりも、受け入れ可能な職種が少ないです。育成就労制度へ移行すると、職種が減ることは、デメリットかもしれません。

受け入れている職種と作業数の違いは、以下のとおりです。

技能実習制度 育成就労制度
87職種159作業 16職種

(参照元:法務省「外国人技能実習制度について」)

技能実習制度と特定技能制度の受け入れ職種に違いがある理由は、制度の目的にあります。
技能実習制度は、開発途上国への技能移転が目的です。初歩的なスキルさえあれば、受け入れるため、幅広い職種と作業で技能実習生が活躍できます。
一方特定技能は、人手不足の解消が目的です。人手不足に悩む職種のみが対象となり、どうしても職種が限られてしまいます。

技能実習制度廃止の背景


技能実習制度が廃止される背景には、どのような理由があるのでしょうか。
ここでは技能実習制度が見直される要因についてみていきましょう。

①制度の目的と現実のギャップ
②人権侵害や労働問題の顕在化
③国際社会からの懸念と改善要請
④日本の労働力不足への対応の限界
⑤新たな外国人材受入れ制度への移行

制度の目的と現実のギャップ

技能実習制度は、発展途上国への技能移転を目的として1993年に創設されました。
しかし、実際の運用では本来の目的とは相違があり、安価な労働力確保の手段として利用されるケースが多発しています。
制度の目的と現実のギャップは、以下の点に顕著に表れました。

・技能習得よりも単純作業への従事が多い
・帰国後の技能活用機会が限られている
・実習生の待遇が日本人労働者と比べて劣悪

このギャップによって制度の存在意義が問われるようになり、廃止に向けた議論が加速しました。

人権侵害や労働問題の顕在化

技能実習制度下での人権侵害や労働問題が深刻化し、社会問題として大きく取り上げられるようになったのも、制度が廃止される要因の1つです。
多くの実習生が劣悪な労働環境や不当な待遇に苦しんでいる実態が明らかになりました。

・長時間労働や低賃金
・パスポートの取り上げ
・強制帰国の脅し
・セクハラやパワハラの横行
・労働安全衛生法違反
・失踪
・不法就労の増加
など

これらの問題は、日本の労働法制や人権保護の観点から見て、明らかに不適切です。そこで、制度の根本的な見直しが必要不可欠となりました。

国際社会からの懸念と改善要請

技能実習制度の運用は、国際的にも関心が高まり、人権団体や国際機関から懸念が表明される傾向にありました。
特に、国連の人権理事会や国際労働機関(ILO)からは、日本政府に対して制度の改善を求める提言が相次いでいます。

表明元 主な指摘内容
技能実習1号 国連人権理事会 労働環境改善の必要性を指摘
技能実習2号 ILO 労働基準遵守の重要性を強調
技能実習3号 米国務省 人身取引報告書での言及

これらの国際的な懸念表明が、日本政府が制度の見直しを検討する一因となった背景があります。

ただし、直接的な廃止要求ではなく、制度の改善や労働者の権利保護強化を求める内容が主でした。
(参照元:国際労働総会「第108回ILO総会の議題について」)

日本の労働力不足への対応の限界

技能実習制度は、結果的に日本の労働力不足を補う役割を果たしてきました。
しかし、制度の本来の目的との矛盾や、技能実習生の権利保護の観点から、労働力確保の手段としては限界があることは明確です。

■労働力不足に関する主な課題

・少子高齢化による労働人口の減少
・特定業種(建設、農業、介護など)での深刻な人手不足
・短期的な労働力確保と長期的な技能育成のバランス

これらの課題に対応するには、技能実習制度を超えた新たな外国人材受け入れの枠組みや受入れルートなど、基礎的な改革が必要です。
外国人労働者を正当に受け入れるために、新しい制度が不可欠になったといえます。

新たな外国人材受け入れ制度への移行

技能実習制度の問題点を踏まえ、日本政府は新たな外国人材受け入れ制度の構築に着手しました。

新制度である育成就労制度では、より公正で透明性の高い仕組みを目指しています。外国人労働者の権利保護と、日本の労働市場ニーズのバランスを取ることが目的です。

■新制度の主な特徴

・明確な在留資格の設定
・適切な賃金水準の保証
・社会保険加入の義務化
・キャリアアップの機会提供
・日本語教育支援の強化

この新たな制度への移行は、技能実習制度の廃止を促進する重要な要因となり、日本の外国人労働者政策の転換点となりました。

何が変わる?育成就労制度の概要


技術実習制度は発展途上国等への技術や知識の移転を図り、その国の経済発展を担うことが目的でした。この点、育成就労制度は日本の労働力不足への対応や、外国人材の日本でのキャリア形成を支援するといった違いがあります。

ここでは、新制度である育成就労制度と技能実習制度の違いと、移行していく際のプロセスを解説します。

育成就労制度と技能実習制度の違い

下表は、育成就労制度と技能実習制度の主な違いをまとめたものです。

在留資格 在留期間 受け入れ対象分野 分野ごとの受け入れ上限数 日本語能力の要件 転籍
育成就労制度 育成就労 原則3年 16職種 設定あり N5または相当の講習 可能
技能実習制度 技能実習1号 2号 3号 通算最長5年 87職種 設定なし 原則なし(介護はN4) 原則不可

技術実習制度が「実習生」であったのに対し、育成就労制度では「労働者」として扱われます。

育成就労制度は原則3年の在留期間となり、特定技能への移行が前提になっています。特定技能1号では5年の在留期間となり、特定技能2号に移行すれば、永続的に日本で働くことも可能です。
(参照元:出入国在留管理庁「育成就労制度・特定技能制度Q&A」)

育成就労制度の対象産業分野と受け入れ人数

育成就労制度の対象分野と受け入れ人数について、下表にまとめました。

産業分野 受け入れ人数
16分野 ・上限がある
・ただし上限数は今後確定

16の産業分野は、以下のとおりです。

介護/ビルクリーニング/工業製品製造業/建設/造船・船用興業/自動車整備/航空/宿泊/農業/漁業/飲食料品製造業/外食業/自動車運送業/鉄道/林業/木材産業

受け入れ人数の上限数は今後決まる見込みです。育成就労制度の目的が日本国内の人材不足の解消である点を考えると、相当な数になるかもしれません。

育成就労制度の条件と特定技能1号への移行条件

育成就労制度で外国人を受け入れるときの条件と、育成就労制度で受け入れた外国人が特定技能1号へ移行するときの条件は、次のとおりです。

育成就労制度の条件 育成就労制度から特定技能1号への移行条件
日本語能力試験N5など、日本語能力A1相当以上の試験に合格している

認定日本語教育機関等で試験と同等レベルの講習を受講する

受入機関側は、外国人材を受け入れてから1年以内に、日本語能力A1相当以上の試験に合格させる

技能検定試験3級や特定技能1号評価試験に合格

日本語能力試験N4に相当するA2レベルの日本語試験にも合格

これらの試験は、外国人労働者を雇用する企業が受験させることになっています。

技能実習制度では、技能実習2号を問題なく修了すると試験が免除される仕組みです。しかし育成就労制度では、必ず試験に合格することが特定技能1号への移行条件となります。

なお、試験に不合格の場合も、同じ企業での雇用が続く限り、再試験を受けるために最大1年間在留の延長が可能です。

※【N5相当の日本語能力とは】
前述のN4で解説したとおり、日本語能力試験では、筆記とリスニング問題をとおして、日本語の理解力を測ります。N1からN5の段階に分かれ、N5は初級となります。

N5合格者の言語能力は、次のとおりです。

読解力 ・基本的なひらがなとカタカナが読めて、漢字は100字程度理解している
・簡単な案内文や標識、メモなどを読める
聴解力 ・ゆっくり話せば、日常生活に関連する簡単な会話や質問を理解できる。
・「交番はどこですか?」や「この電車は何時に出発しますか?」などがわかるレベル。

【A1相当の日本語能力とは】
A1は、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)という試験に基づいた日本語のレベルです。
ヨーロッパ言語共通参照枠では、語学能力を以下の6段階で評価します。

A1/A2/B1/B2/C1/C2

A1合格者の言語能力は、日本語能力試験のN5レベルと同等となります。またA2は、日本語能力試験のN4と同等レベルです。

【技能検定試験と特定技能1号評価試験とは】
「技能検定試験」は、在留区分を移行するために受ける試験で、外国人の技能レベルがわかります。もともと「技能実習第1号から2号へ移行」の際に受験されています。

「特定技能1号評価試験」は、「特定技能の在留資格」を取得するための試験です。

技能実習制度から育成就労制度への移行プロセス

育成就労制度の施行時期 施行後の猶予期間
2027年頃 3年間(2030年頃まで)

育成就労制度は、法律が成立してから3年以内に施行される予定で、施行時期は2027年頃となる見込みです。

施行後は、急な制度変更に対応するための緩やかな移行期間として、3年間の猶予が設けられることになっています。

この移行期間中、2030年頃までは、技能実習制度と育成就労制度が並行して運用されるため、技能実習生と育成就労制度の外国人労働者が混在する状況が続くかもしれません。

育成就労制度は今後も要件が変更される可能性があるため、常に最新情報をキャッチアップしていきましょう。

育成就労制度についてよくある質問


育成就労制度についてよくある質問をまとめました。

外国人材の人権保護や制度の方針は、今後徐々に決まります。より詳しい概要や現状については、公式の情報期間の記事や資料をダウンロードして進展がないかチェックしてください。
ここでは育成就労制度でよく話題に上がる、転職問題と継続雇用について紹介します。

育成就労は転職(転籍)ができる?

育成就労外国人の転職(転籍)については、以下の特定要件を満たした場合にのみ可能です。

①転職先は現職と同じ分野に限る
②分野ごとに定められた日本語レベルの習得が必須
③分野ごとに定められた技能検定試験基礎級等に合格している
④就労開始から1年以上の期間が経っている
⑤新たな受入れ先が育成就労制度の認定を受けている

条件からわかるとおり、基本的にはさらなる技術の習得やキャリアパスのための転職という側面が強いです。
そのため、外国人材の気分や利己的な発想によって転職できるわけではありません。

また、転職の際は、受入れ先が転籍にいたるまでのあっせん、仲介状況などを監視できるようにしなくてはなりません。
現在の職場だけでなく、転籍先としての企業もふるいにかけられることを覚えておきましょう。

育成就労が終了しても継続雇用は可能?

育成就労制度では、原則として3年間の就労になります。
ただし、同じ分野で特定技能1号へ移行できれば、2年から5年の就労が可能です。その後は、特定技能2号へ移行できます。

特定技能2号を取得できれば、日本国内での永住的な就労が可能です。
また、特定技能1号への移行に際して試験に不合格になった場合は、最長で1年間の在留が認められる見込みです。

まとめ


新制度の育成就労制度は、技能実習制度の問題点を改善し、外国人労働者のスキル向上と長期的な就労を支援する新しい内容の制度です。
政府国会が報告書を基に国際的な人権保護を強化し、外国人労働者の雇用条件を改善する方針の一環として導入されました。

外国人は、技能実習生としてではなく労働者として認められ、3年間の就労を経て特定技能1号を取得できるスキルも身につきます。さらに高度な職種や業界でのキャリアアップも可能です。

また、在留資格や日本語能力の要件も明確化され、企業は外国人労働者を長期的に雇用しやすくなるのが大きな魅力といえます。育成就労制度によって、日本の労働力不足の解消や企業の国際競争力の強化が期待されています。

育成就労制度の運用は、2027年頃の見込みです。最終的な方針や具体的な政策の決定などは、公式機関による記事解説や最新情報を随時確認しましょう。

@カイゴでは、貴社専任の担当者が現状の悩みを丁寧にヒアリングし、外国人労働者の採用をサポート、最適な人材を探します。採用業務から就職後の管理まで一気通貫して対応します。
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