コラム
外国人労働者の労働時間に制限はある?留学生や外国人の労働時間と日本人との違い
外国人
現在の日本では、少子高齢化による人手不足の影響もあり、外国人労働者が増えています。
外国人労働者の受け入れにあたり、
「外国人労働者にも日本の制度が適応されるの?」
「外国人の1日の労働時間で気をつける点があれば知っておきたい」
など分からない方も多いのではないでしょうか。
今回は、外国人労働者の労働時間や残業時間、企業担当者の方が知っておくべき基本ルールについて解説します。違反した場合には、企業に厳しい罰則が課せられるケースもあるため、リスクヘッジも兼ね、労働時間にまつわるルールをしっかりと確認しておきましょう。
外国人労働者の労働時間の基本ルール
まずは、外国人労働者の労働時間や残業などに関する基本ルールを解説します。
労働基準法の適用労働時間
日本の労働基準法は、日本人労働者だけでなく、外国人労働者にも適用されます。つまり、外国人労働者の労働時間についても、1日8時間、週40時間を超えて労働させることは原則禁止されています。
労働時間に付随して、休憩時間や休日についても決まりがあります。休憩時間は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければなりません。必ず業務の途中でとらなければならないため、「拘束時間が短い方が良いため、休憩をとりたくない」とスタッフから言われたとしても、法律で決まっていることを伝えましょう。なお、事情があって休憩時間を長く取り、全体の拘束時間が長くなったとしても、労働時間が8時間であれば問題ありません。
休日は、毎週1日の休日、または4週間を通じて4日以上の休日を確保する必要があります。上記を満たしていれば、週6日の勤務も可能です。
これらのルールは、日本人、外国人労働者の国籍や在留資格に関わらず、一律に適用されます。企業は、外国人労働者を雇用する際、日本人労働者と同様に、労働基準法を遵守し、労働時間管理を徹底する必要があります。
36協定と残業について
日本の労働基準法は、原則として1日8時間、週40時間を超える労働を禁止していますが、企業がこれを超える労働を求める場合には「36協定」を締結する必要があります。この協定は、労働基準法第36条に基づき、企業と労働者の過半数を代表する者または労働組合との間で取り交わされるものです。
36協定の目的は、労働者の過度な労働を防ぐことです。具体的には、残業や休日労働の理由、業務の種類、労働者数、そして残業の時間数を事前に明確にし、労働基準監督署に届け出る必要があります。この協定を締結しない場合、残業をおこなうことはできません。
また、36協定に基づく労働時間の上限は、法律で厳格に定められています。基本的には、月45時間、年360時間までの時間外労働が許可されています。特別条項を含む協定では、月の時間外労働は100時間未満、年間720時間までとされ、月の時間外労働が45時間を超える月は最大6ヶ月まで認められます。これらの規定を遵守することで、過労を防ぎ、労働者の健康を守る制度となっています。
日本人労働者と同様に、外国人労働者も36協定の適用を受けるため、残業時間や休日労働に関する規定は一貫しています。企業が外国人労働者を受け入れる際は、労働基準法および36協定に基づく労働時間や残業の取り決めを正確に理解し、適切な運用をすることが求められます。
外国人労働者と在留資格の違い
一言に「外国人労働者」の労働時間ルールといっても、在留資格の違いによって労働時間制限の有無が異なります。
例えば、以下の在留資格には、労働時間に制限があります。
「留学」「家族滞在」「特定活動」の一部など
※給与を伴うインターンシップも規制対象
一方、以下の在留資格を持つ外国人労働者には労働時間制限がありません。
「永住者」「日本人の配偶者」「特定技能」「技能実習」「介護」「技術・人文知識・国際業務」「ワーキングホリデー」など
企業は、外国人労働者を受け入れる際に、各在留資格に応じた適切な労働時間管理をおこなうことが重要です。
留学生を含む外国人の労働時間
企業では、留学のために日本に滞在する外国人を受け入れる場合があるかもしれません。上記で説明した通り、「留学」をはじめ、「家族滞在」「特定活動」の一部の在留資格を持つ外国人は、労働時間に制限があります。ここでは、それらの在留資格を持つ人を受け入れる場合に注意する点を解説します。
留学生外国人がアルバイトで働く場合は注意が必要
留学生が日本でアルバイトをする場合、いくつかの注意点があります。まず、留学生の在留資格は学業が主な目的であり、原則として労働は許可されていません。しかし、「資格外活動許可」を取得することでアルバイトとして就労できます。この許可は、出入国在留管理庁に申請し、許可を得ることで、学業以外の活動として労働が認められるものです。
資格外活動許可を得ずにアルバイトをすると、雇用主と外国人労働者双方に法律上の罰則が科せられる可能性があります。具体的には、懲役や禁錮、または最大300万円の罰金が課されることがあります。さらに、違反が重大な場合は外国人が日本から退去強制されることもあるため注意が必要です。そこまでいかなくとも、在留期間更新時に、不許可となってしまう可能性が高まるともされています。
外国人労働者を採用する際には、在留カードを確認して、資格外活動許可の有無を確認することが重要です。在留カードの裏面最下部に「資格外活動許可欄」があり、ここに「許可」と記載されていれば、一定の条件下で就労可能です。許可が記載されていない場合でも、外国人本人に資格外活動許可の申請を促し、後に確認できれば、合法的にアルバイトとして雇えます。
企業担当者は、外国人労働者を雇用する前にこれらの手続きと確認作業を怠らないようにし、適切な対応が求められます。
資格外活動許可や業種に注意
資格外活動許可を得ている留学生でも、受け入れの際は労働時間や業種の制限について注意しなければなりません。
まず、労働時間については、週に28時間までという労働時間の制限が設けられています。この制限を超えて働いてしまうと、本人だけでなく雇用主も不法就労助長罪に問われるリスクがあります。なお、夏休みや冬休みなど、学校の長期休暇中は、週40時間までの労働が認められる場合があります。ただし、長期休暇期間を必ず確認し、労働時間の制限が変わる時期を把握しておかなければなりません。
また、資格外活動許可があるからといって、すべての業種で働けるわけではありません。パチンコ店やホストクラブ、スナック、バー、麻雀店など「風俗営業」に関連する業種では、外国人のアルバイト活動は禁止されています。資格外活動として認められていない業種で外国人労働者を雇用した場合にも不法就労助長罪に問われます。
例えば、以下のような業種が禁止されているため、注意が必要です。
・キャバクラやホストクラブなど接待を伴う飲食店
・照度が10ルクス以下で営まれる飲食店
・5㎡以下の客席を設け営まれる飲食店
・パチンコ店、雀荘、ゲームセンター、アミューズメントカジノなどの遊技場
・ソープランド、ラブホテル、アダルトショップなど
・アダルト映像を販売、配信する営業
・マッチングアプリなどを営む営業
など
また、風俗営業がおこなわれる施設の清掃、関連するティッシュ配り、通訳など、間接的に風俗営業に関わる業務であっても、就労が禁止されています。業種の判断に迷う場合は、専門の行政書士に相談しておけると安心です。
企業担当者の方は上記のルールを守ることで、適切に外国人労働者を受け入れる体制を整えることが求められます。
ダブルワークは計算方法に注意
外国人労働者を受け入れる企業にとって、留学生などがダブルワーク(掛け持ち)をする際の労働時間の計算方法には特に注意が必要です。多くの企業担当者が誤解しやすいのは、「1社につき週28時間まで」というルールではないという点です。実際には、複数の職場で働く場合、その労働時間は全て合算され、週28時間以内に収める必要があります。
例えば、A社で週に20時間働いている場合、B社で働けるのは最大8時間までです。この合計時間には残業も含まれるため、どちらの会社でどれだけ残業するかも考慮しなければなりません。さらに、労働時間は1週間単位で計算されるため、週のどの日を起算日としても、週28時間を超えないように管理することが重要です。
企業としては、外国人労働者から他の仕事との掛け持ちを相談された際、安易に認めるのではなく、申告内容を慎重に確認しましょう。認める場合には掛け持ち先の企業名や業務内容、労働時間を正確に把握し、自社での勤務時間との調整を図ります。また、ダブルワークがリスクとなる場合は、許可しないという選択肢も考慮すべきです。
違法労働は違法、罰則について
外国人労働時間の管理ができていない企業は、労働基準法に違反したとして罰せられます。罰則の詳細や違反をしてしまった企業事例を事前に確認していきます。
違法な労働時間の事例
外国人労働者を受け入れる企業にとって、違法な労働時間の運用は深刻なリスクとなります。実際にニュースとして報道された事例を見ていきましょう。
事例①36協定の期限切れ
2024年2月14日、東京・立川労働基準監督署は、36協定の期限が切れているにもかかわらず、15人の労働者に週40時間を超える時間外労働をさせたとして、東京都にある食品加工業とその代表取締役を労働基準法違反の疑いで東京地検に書類送検しました。同社では、2023年9月11日から17日の1週間にわたり、最大39時間の時間外労働を実施していたとされています。
同事例は、36協定の遵守が不十分である場合、厳しい法的リスクを伴うことを示しています。
事例②外国人労働者に長時間労働を強いた
滋賀労働局の調べで、外国人技能実習生を受け入れている県内事業所で147件の法令違反が確認されました。その中でも悪質なものとして、食品加工業の事業所を書類送検しました。この事業所では、実習生3人に対し、月最大97時間の時間外労働を強制し、さらに労働時間の記録を改ざんしていたとされています。この違法行為により、事業所は労働基準法違反の疑いで書類送検され、略式起訴されています。
ちなみに、滋賀労働局の調べでは、2021年は、統計方法が変更された2017年以降で最も多く違反件数があったといいます。
事例③時間外および休日労働に関する違反
愛媛県の縫製業者は、外国人技能実習生10人に対し、違法な時間外および休日労働をおこなわせたとして、労働基準法違反で書類送検されました。同社では、有効な36協定を締結していないにもかかわらず、週40時間を超えた労働や、1日最大4時間40分の時間外労働を強制したとされています。さらに、最大で10週間連続して休日を与えないという違反も発覚しました。これは労働基準法第35条(休日)に違反する行為であり、労働者に対して適正な休息を保障しないことで重大なリスクを伴います。
また同事例では、違法な労働時間だけでなく、過半数代表者の選出が適法でない36協定を届け出ていたことも問題視されています。適正な選挙手続きなしに代表者を選出したため、その協定が無効とされました。さらに、法定の割増賃金も支払われておらず、企業としてのコンプライアンスが大きく問われる結果となりました。
事例④月109時間の残業とタイムカード偽装
自動車整備工場でベトナム人技能実習生に対し、法定の時間外労働を大幅に超える労働を強いていたことが発覚しました。36協定で定められた月70時間の時間外労働の上限を大幅に超え、最大で月109時間30分もの残業をさせていたことが明らかとなり、労働基準法第36条に違反する行為として京都下労働基準監督署により書類送検されています。
さらに、調査の際には違法な労働時間を隠蔽するために虚偽のタイムカードが提出されていたことも確認され、悪質な対応として追及されています。
こうした事例は企業のリスクを大きく高め、法的処罰の対象となるだけでなく、企業の信用を失う結果を招きかねません。
事例⑤36協定の締結・届出なく、違法な時間外労働をさせた
岡山労働基準監督署は、県内の食料品製造業企業が36協定を締結、届け出ることなく、労働者6名に違法な時間外労働をさせたとして、同社と代表取締役を労働基準法違反で書類送検しました。最も長い労働者では月に253時間もの時間外労働を強いられており、法定労働時間を大幅に超えていました。また、臨検の際には、労働時間を実際より少なく報告した虚偽の勤務報告書を提出した疑いも浮上しています。
法的な罰則
外国人労働者の不法就労に関する法的罰則は非常に厳格なため、企業担当者がリスク管理を徹底する必要があります。違法な労働を助長した場合、雇用主には3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があります。外国人労働者本人も処罰の対象で、最悪の場合は退去強制や出国命令を受けます。
2024年2月末には政府が不法就労助長罪の罰則を引き上げる方針を発表しました。2025年6月からは5年以下の懲役または500万円以下の罰金が適用される予定です。この改正により、違法労働に対する罰則はさらに厳しくなります。
不法就労助長罪として罪を問われる事例としては、労働時間の制限を無視して働かせるケース以外にも、不法就労をあっせんした場合も挙げられます。その場合、上記と同様の罰則が科せられ、事業主やあっせん者は厳しい処罰の対象となります。
企業が外国人労働者を雇用する際には、在留資格や労働時間の制限を厳守することが不可欠です。「知らなかった」という言い訳は通用せず、違反が発覚した場合には厳しい罰則が科せられます。そのため、企業は雇用前に外国人労働者の在留資格や資格外活動の許可を確認し、労働時間の管理を徹底する必要があります。正しい手続きを踏むことで、不必要な法的トラブルを回避し、円滑な業務運営を実現できます。
よくある質問
外国人労働者の労働時間についてよくある質問とそれに対する回答を紹介します。
外国人労働者の法定労働時間は何時間ですか?
日本では、外国人労働者も日本人と同じく、1日8時間、週40時間が法定労働時間として定められています。ただし、36協定が結ばれている場合は、一定の範囲で残業や休日労働が認められています。
技能実習生の労働時間に制限はありますか?
技能実習生も日本の労働基準法に従い、1日8時間、週40時間が基本となります。残業や休日労働をおこなう場合も、日本人労働者と同様に36協定の締結が必要です。
海外からの留学生も1日8時間労働ができますか?
基本的に留学生は「資格外活動許可」の範囲内で週28時間までの就労が認められています。上記の範囲内であれば1日8時間の勤務も可能です。また、長期休暇中は、週40時間の勤務も認められています。
まとめ
今回は、外国人の労働時間について解説しました。労働時間に関する日本のルールは、日本人と同様に外国人にも適用されるため、1日8時間、週40時間を超える労働は原則として禁止されています。また、残業をするには36協定が必要で、規定の上限を超えないよう厳守しなければなりません。
特に留学生などの一部在留資格には労働時間の制限があり、週28時間を超える労働は禁止されています。企業は外国人労働者を受け入れる際、在留資格の確認や適切な労働時間管理を徹底することで、違法な労働が防げます。企業の担当者の方は、今回の記事を参考に、リスクを事前回避しましょう。