コラム
介護分野での技能実習生受け入れ要件や手順は?技能実習制度の現状と受け入れ時のポイントまで解説
技能実習生
近年、介護分野の人材不足が深刻化しており、多くの企業が外国人技能実習生の受け入れを進めています。しかし、技能実習制度には複数の要件や手続きがあり、正しく理解しないとトラブルや時間のロスにつながります。特に、介護分野は介護特有の条件が多いため、実習生の受け入れを知ってる雇用側も「何から始めればいいのか?」「何を準備すればいいのか?」などの疑問を先送りしているような現状があります。
この記事では、介護分野で技能実習生を受け入れる際の要件や具体的な手順を分かりやすく整理し、実務に活用できる情報をお届けします。また、技能実習制度の現状や受け入れにおける重要なポイントについても解説し、スムーズな受け入れの参考にしてください。
目次
技能実習制度とは?
技能実習制度とは、開発途上国などの外国人を日本で一定期間(最長5年間)に限り受け入れ、OJT(オンザジョブトレーニング:職場の上司や先輩が、部下や後輩に対して、実際の仕事を通じて指導し、知識、技術などを身に付けさせる教育方法)を通じて技能を移転する制度です。平成5年に制度が創設されて以後、令和5年には全国に約40万人の技能実習生が在留しています。
技能実習制度の目的
技能実習制度の目的は、外国人技能実習生を受け入れ、日本で技術や知識を習得させた後、そのスキルを活かして母国の発展に貢献することです。技能実習は、単なる労働力の提供ではなく、実習生に専門的な技術を伝えることに焦点を当てています。実習生が学ぶ分野は、農業・林業関係、漁業関係、建設関係、食品製造関係、繊維・衣服関係、機械・金属関係、その他と多岐にわたり、さらに細かな業種に分けられます。選択肢が広がることで、各業界の需要に応じた技術を身につけることが可能です。たとえば、建設業界では高度な施工技術や安全管理、食品製造業では衛生管理技術が重視され、実習生はそれらを日本国内の先進的な技術環境の中で学びます。
技能実習制度は日本の企業にとっても重要な役割を果たしています。日本国内での人手不足を補うだけでなく、外国人実習生に教育を施すことで、企業はグローバルな視点を持ち、国際的な技術交換を進めることができます。このように、技能実習制度は、日本と外国の双方にとってウィンウィンの関係を築くための重要な架け橋となっています。
技能実習制度の仕組み(在留資格区分と期間)
技能実習制度の仕組みは、在留資格区分や滞在期間が明確に定められており、各段階に応じた要件や試験が求められます。
在留資格区分と期間は以下の通りです。
技能実習1号 (入国初年度) |
技能実習2号 (2年目〜3年目) |
技能実習3号 (4年目〜5年目) |
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受け入れ期間 | 法務大臣が個々に指定する期間(1年を超えない範囲) | 法務大臣が個々に指定する期間(2年を超えない範囲) | |
要件 | 基本的な知識や技術を習得するための段階 | 技能実習1号を修了し、移行時に実技試験に合格する必要がある | 技能実習2号の修了、実技試験の合格、および優良な受け入れ機関であることが必要 |
特徴 | 実技試験は不要。日本語能力試験(N4以上)などを条件とする場合もある | より高度な技能の習得が目的 | 原則として実習生が母国に一時帰国した後に再来日することが条件 |
技能実習3号を修了した実習生は、特定技能への移行が可能です。特定技能では在留期間がさらに延長でき、特定分野での即戦力として働くことが期待されますが、特定技能への移行には、分野ごとに定められた試験をクリアしなければなりません。
介護分野での受け入れ状況
介護分野では、技能実習のほかにも受け入れ可能な資格があります。それぞれの資格には違った特徴がありますが、どの資格でも介護分野特有の要件を満たす必要があるため、受け入れ側の準備とサポート体制の充実が欠かせません。
それでは、介護分野での受け入れ状況や他の資格と比較していきます。
技能実習生の受け入れ申請状況
介護職員の不足は、日本全国で課題となっています。特に、大都市圏やその周辺地域で深刻で、たとえば、東京都と大阪府ではそれぞれ約3万4千人、千葉県では約4万8千人の介護職員が今後必要とされると予測されています。このように、介護分野では数万人規模の人材確保が急務となっており、業界全体として総合的な対策が求められています。
令和5年6月末時点における技能実習生の総数は、14,751人となっており、なかでも介護分野の受け入れが顕著です。介護技能実習生は、高齢化が進む日本社会において重要な役割を果たしており、外国人労働者を積極的に受け入れることで人材不足への対応が図られています。
他の在留資格と比較
介護分野における外国人の在留資格には、「技能実習」「特定技能」「在留資格(介護)」「EPA(経済連携協定)」があり、それぞれの受け入れ人数や目的に明確な違いがあります。また、技能実習制度が技術習得と母国への還元を目的とする一方で、特定技能は即戦力となる技能を持った外国人労働者を受け入れ、より長期間の就労を認めています
在留資格(介護)は日本国内で介護の資格を持つ外国人を対象にし、EPAは特定国との経済連携協定に基づく介護分野での外国人労働者受け入れ制度というように、それぞれの制度はが日本の介護業界におけるニーズに応じた柔軟な対応をしています。
それでは、この4つについて詳しくみていきましょう。
技能実習
技能実習は、開発途上国への技能移転と国際貢献を目的としています。母国での一定の職務経験や関連試験の合格(例: 日本語能力試験N4以上)が条件です。在留期間は、原則1〜5年(1号〜3号まで)で5年を超える在留は不可です。労働力としての位置づけではなく、実習の一環として扱われるため、労働環境に関するトラブルが指摘されることもあります。
特定技能
特定技能は、即戦力としての外国人労働者の受け入れ拡大を目的としています。分野別試験(例: 介護分野の日本語能力試験N3以上や介護技能試験)が必須条件ですが、技能実習修了者は試験免除で移行が可能です。
令和5年12月末時点で28,400人の特定技能を持つ外国人が介護職に従事しています。在留期間は最大5年ですが、3年以上の実務経験後、介護福祉士国家試験に合格すれば家族帯同が可能です。
在留資格(介護)
在留資格(介護)は、介護福祉士として日本で就労する外国人が取得するものです。2017年に創設され、介護分野での外国人材の活用を促進する役割を果たしています。
取得要件として、介護福祉士養成施設(2年以上)で介護を学ぶ養成施設ルートと技能実習生として3年以上の実務を経験する実務経験ルートがあります。どちらのルートも最終的には国家資格「介護福祉士」の試験に合格しなければなりません。また、日本語能力試験(JLPT)N2以上、または同等の日本語能力が必要です。合格後、介護福祉士資格取得(登録)し、介護福祉士として業務従事します。
最長5年で更新可能で、家族帯同も認められます。長期的な定住や永住を視野に入れることが可能な制度です。
EPA(経済連携協定)
EPA(経済連携協定)は、日本はインドネシア、フィリピン、ベトナムとの経済連携協定(EPA)に基づき、介護福祉士候補者を受け入れています。EPA枠では、候補者が来日し、介護現場で働きながら国家資格取得を目指します。来日前に基礎的な日本語研修を受講(通常6か月間)しなければなりません。その後、在留資格(介護)同様に介護福祉士養成施設(2年以上)で介護を学ぶ養成施設ルートと3年以上の実務を経験する実務経験ルートで経験を重ね国家資格「介護福祉士」の試験に臨みます。
4年間にわたりEPA介護福祉士候補者として就労・研修に適切に従事したと認められる者については、 「特定技能1号」への移行に当たり、技能試験及び日本語試験等を免除されます。
介護分野での必要な受け入れ要件は?
介護分野で技能実習生を受け入れるためには、技能実習制度に基づいた要件を満たさなければなりません。これには、介護分野特有の固有要件が含まれます。
それでは、介護分野特有の固有要件をみていきましょう。
コミュニケーション能力の確保
1年目(入国時)は、介護業務を円滑に行うための基本的な日本語能力として「N3」程度が望ましい水準とされています。一方で、最低限の要件としては「N4」程度の日本語能力が求められます。このレベルであれば、簡単な日常会話や基本的な指示を理解し、コミュニケーションを取ることが可能です。
2年目以降は、介護業務をより専門的に行うために「N3」程度の日本語能力が求められます。このレベルでは、業務上必要な指示や説明をしっかり理解し、利用者との円滑なコミュニケーションが可能になります。介護職場での日本語は、単なる会話能力にとどまらず、専門用語や状況に応じた表現力も重要となるため、継続的な日本語学習が必要です。
適切な実習実施者の対象範囲の設定
介護の業務がおこなわれている事業所を対象とし、介護福祉士国家試験の実務経験対象施設が前提となります。ただし、実習実施者の訪問系サービスは対象としません。経営が一定程度安定している事業所として設立後3年を経過している事業所が対象です。
適切な実習体制の確保
受入れることができる技能実習生は、事業所単位で介護などを主たる業務としておこなう常勤職員(常勤介護職員)の総数に応じて設定します(常勤介護職員の総数が上限)。技能実習生5名につき1名以上選任します。そのうち1名以上は介護福祉士などの有資格者です。
監理団体による監理の徹底
監理団体の役職員には、5年以上の実務経験を有する介護福祉士など、介護業務の実務に精通した専門家を配置することが求められています。専門家の配置は、実習生や労働者が実際の介護現場で直面する問題に対して、適切な指導やサポートが提供されることが保証されます。
監理団体は定期的に現場の状況をチェックし、介護業務が適切に行われているかを確認します。また、介護分野に特化した専門的な研修を実施することで、実習生の技能向上と労働環境の改善を図り、実習生が日本で円滑に業務がおこなえるようにサポートします。
受け入れの手順
介護分野で技能実習生を受け入れるには、多くの手続きがあります。手続きの途中で不備が生じると受け入れ不可となる恐れもあるため事前にしっかり把握しておきましょう。
それでは、受け入れ手順をわかりやすく説明していきます。
受け入れ計画の準備
技能実習生の受け入れには、技能実習制度に基づき適切な計画の準備が必要です。技能実習計画の認定には、実習内容、期間、指導体制、生活支援の具体的な計画を策定、それに並行して、監理団体の選定の手続きが進められます。
受け入れ要件の確認
計画が完成すれば申請手続きに向けての確認をおこないます。介護分野特有の要件も含め、以下の必要条件を満たしているのか確認しましょう。
・実習生が十分に学べる環境を整備していること
・日本語能力要習生が日本語能力試験(JLPT)N4以上を取得していることを確認する
・介護福祉士資格を持つ職員が技能指導を担当するために配置を決める
技能実習計画の申請と認定
技能実習計画を作成後、出入国在留管理庁に認定を申請します。計画内容が法律に準拠していることが認められると認定が下ります。
実習生の選定と入国準備
母国の送り出し機関と協力し、実習生を選定します。その際、認定基準に適合すること、欠格事由に該当しないことが条件です。実習生が決定したら、実習生は、入国前に介護の基礎知識や日本語を学ぶ研修を受けます。その間に 在留資格「技能実習1号」を取得します。
受け入れの際の注意すべきポイント
外国人技能実習生が適切に技能を学ぶためには、介護福祉士資格を持つ経験豊富な指導員が計画的に指導を行うことが必要です。この際、言葉や文化の違いに配慮したコミュニケーションが欠かせません。指導員が日本語だけでなく簡単な説明方法を用いるなど、技能実習生が理解しやすい指導を心がけることが大切です。技能実習生が異国の地で不安なく生活できるよう、住居や日常生活のサポートをし、相談窓口を設置することが推奨されます。さらに、彼らが孤立しないように地域社会との交流や支援を促進する取り組みも効果的です。
法令遵守は、企業経営において不可欠です。たとえば、技能実習計画の認定内容に沿った実習をおこなうことや、賃金の支払いが適正であることを確認することが求められます。不適切な対応は制度違反となり、受け入れ機関としての信頼を損なう可能性があるため注意しましょう。
まとめ
技能実習制度を通じて外国人を受け入れるには、基本的な要件と介護分野特有の固有要件を満たすことが必須です。実習生が適切に技能を学び、母国でその経験を活かすことを目的とした仕組みを構築しています。加えて、適切な技能実習計画を作成し、法令遵守が求められます。
たとえば、介護分野では実習計画内で直接介護に従事する内容を重視し、清掃や事務作業に偏らないように設計しなければなりません。また、送り出し国と連携し、適切な研修と選考プロセスを経て受け入れることが推奨されています。
外国人技能実習生の受け入れは、日本の介護業界にとって欠かせない要素となっています。介護分野特有の固有要件を理解し、それを実際の受け入れ計画に反映させ、技能実習生が十分な学びと経験を得られる環境を提供しましょう。