コラム
外国人技能実習生が直面する現実とは?奴隷化の要因と企業に求められる最善策
技能実習生
日本の外国人技能実習制度は、発展途上国の人材に技術や知識を伝承し、自国で役立ててもらう目的のもとでおこなわれています。しかし、外国人技能実習生の働き方や接し方などの不適切な対応が問題として取り沙汰され「現代の奴隷制度」とまで批判されています。
その背景には、過酷な労働環境、不透明な契約、文化や言語の壁など、技能実習生が直面する現実には多くの問題が潜んでいます。制度を健全に運用し、実習生の権利を守るためにどのような取り組みをすれば良いのでしょうか?
本記事では、外国人技能実習生が「奴隷」と呼ばれる理由を明らかにし、雇用主として何ができるのかを具体的に解説します。
技能実習生の実態と現状
外国人技能実習制度は、日本の労働力不足を補います。一方で、実習生が直面する現実は制度の理想とかけ離れているのが現状です。本来の目的である技術移転や人材育成が形骸化し、過酷な労働環境もめずらしくありません。
それでは、技能実習生が置かれている現状とその背景にある課題についてみていきましょう。
技能実習制度の目的
1993年に導入された技能実習制度は、日本が発展途上国の人材育成を支援するために設けた仕組みです。
主な目的は、実習生に日本の技術や知識を学ぶ機会を提供し、それを母国に持ち帰ることで、自国の産業や経済発展に寄与することです。また、この制度を通じて日本と外国との国際的な協力関係を深めることも期待されています。
特に、農業や製造業、建設業などの分野で実践的なスキルを身につけることで、実習生が帰国後に母国で活躍できるようにすることが制度の本来の目的です。
実態としての「奴隷」呼称の背景
技能実習生が「奴隷」と呼ばれる背景には、過酷な労働環境や低賃金、長時間労働が絡んでいます。多くの実習生は、契約に基づく労働が厳しく守られていない、もしくは全く守られていない現状に直面しています。生活環境も整っていない場合も多く、支配的な労働環境が続いていることが問題視されているのです。
実習生が直面する主な問題
実習生が直面する問題は多岐に渡ります。前述にもあるように、過酷な労働条件、低賃金などの他にも賃金の未払いや不当な差別、適切な休暇の欠如などがあります。
これらの問題は、実習生が十分に自分の権利を主張することができない環境にあるため、長期間放置されることが多いです。
技能実習生が不適切な扱いを受ける要因
技能実習生が不適切な扱いを受ける要因は、契約内容が不透明なまま働かされるケースや、文化や言語の違いによる誤解、監督体制の不十分さがあります。その結果、実習生の権利侵害を助長しているのです。
それでは、これらの要因を詳しく解説し、制度の改善に必要な視点を明らかにします。
雇用契約の不透明さと法的知識の欠如
技能実習生は、日本での労働契約に関する情報や仕事内容を充分に理解できていないことが多いです。加えて、雇用側からの契約内容が不明確であったり、労働条件が十分に説明されないまま仕事を始めさせられることがあります。
このような状況では、法的な知識がない実習生は、自己防衛ができず、労働環境に不満があっても声を上げることができません。さらに、過酷な環境に置かれても、それが違法であるかどうかの判断基準がわからず、不当な状況を受け入れてしまうケースもあります。また、母国の送り出し機関や仲介業者との契約に縛られ、実習先を変えたくても辞めることができないと感じる実習生も多いです。
文化や言語の壁による理解不足
文化や言語の壁は、外国人技能実習生が日本での生活や労働環境に適応するうえで大きな課題のひとつです。
日本の職場では、曖昧な指示や「察する」ことが求められる場合がありますが、これが外国人実習生にとって非常に難しいことがあります。文化的背景の異なる国の実習生にとっては、具体的な指示がないと正しく対応できないことがあります。これがミスや誤解を生み、「能力不足」と誤解されるケースも少なくありません。
加えて、日本語の敬語や職場特有の表現、法律や契約に関する難解な用語などが実習生にとって大きなハードルとなります。その結果、日本語での対応ができない実習生が自分の権利を十分に理解できないまま働かされることがあるのです。
このように、文化や言語の違いが不適切な扱いを助長する要因になることがよくわかります。
監督体制の甘さと効果的な是正措置の欠如
監督機関の体制が不十分であることも、技能実習生が不適切な扱いを受ける要因です。監督体制が厳格でないため、企業側が不正な行為を行っても適切に指導されず、問題が長期化することがあります。是正措置が講じられない場合、実習生は不利益を被り続けることになるのです。
それでは、監督機関の役割や業務はどういったものなのか?その内容について挙げていきま
す。
出入国在留管理庁(Immigration Services Agency of Japan)
出入国在留管理庁は、技能実習生の在留資格に関する手続きを管理する機関です。技能実習計画の審査や、実習生の在留資格の適切な付与をおこないます。また、不正行為が疑われる場合には調査をおこない、不適切な実習実施者や監理団体に対して是正指導や処分をおこないます。
具体的な業務は、以下のとおりです。
- 技能実習計画の審査
- 在留資格「技能実習」の審査・付与
- 不正行為に対する監視・指導
- 実習生の保護措置(緊急時の対応)
外国人技能実習機構(OTIT: Organization for Technical Intern Training)
外国人技能実習機構(OTIT)は、技能実習制度の運用を監督し、実習生の保護を目的として設立された独立行政法人です。監理団体や実習実施者を指導・監督し、不正行為や人権侵害を防ぐための監査をおこないます。また、実習生が直面する問題に対応するための相談窓口も運営しています。
具体的な業務は、以下のとおりです。
- 監理団体や実習実施者の許可・認可
- 定期的な監査(書類確認、現地調査)
- 実習生向けの相談窓口の運営(母国語対応)
- 不正行為への是正指導と報告義務化
- 制度に関する周知・啓発活動
監理団体(Supervising Organizations)
監理団体は、技能実習生と実習実施者(受け入れ企業)の間に立ち、制度が適切に運用されているかを監督する中間機関です。受け入れ企業が実習計画を守り、実習生を適正に雇用しているか確認する責任があります。
具体的な業務は、以下のとおりです。
- 受け入れ企業の指導・監査
- 技能実習計画の作成サポート
- 実習生への定期的な面談やサポート
- 不正行為の報告・是正指導
労働基準監督署(Labor Standards Inspection Offices)
労働基準監督署は、技能実習生の労働条件や安全衛生基準が法律に適合しているかを監督します。実習生の労働環境に問題がある場合、企業に是正指導をおこないます。
具体的な業務は、以下のとおりです。
- 労働条件(賃金、労働時間)の監査
- 安全衛生基準の確認
- 違反企業への指導や処罰
- 労災事故の調査
送り出し機関(Sending Organizations)
送り出し機関は、技能実習生の母国での募集や選考を行い、日本での受け入れ準備をサポートします。本来は技能実習生の利益を守る役割を果たすべきですが、実際には高額な手数料を徴収し、不当な契約を結ぶケースもあります。外国人技能実習機構のホームページには、外国政府認定送出機関一覧が掲載されているので参考にしましょう。
企業として技能実習生にできる最善とは?
技能実習制度の適正な運用には、実習生の権利を守り、安心して働ける環境を提供することが不可欠です。
それでは、企業が具体的に取り組むべきポイントについてみていきましょう。
実習生の権利を守る透明性のある雇用契約の徹底
企業は、技能実習生との雇用契約を明確にし、契約内容を双方が正しく理解できるようにすることが必須です。契約書は、必ず日本語と実習生の母国語で用意し、労働条件や権利義務について丁寧に説明することが求められます。
説明時には通訳を活用し、実習生が契約内容を十分に把握しているか何度も確認しましょう。さらに、契約書に基づく待遇が確実に守られているかを定期的にチェックし、問題が発生した場合は速やかに是正措置を講じることが必要です。
文化や言語を尊重したサポート体制の強化
技能実習生が日本の職場文化に適応するには、文化や言語に対するサポートが欠かせません。企業は、日本語教育だけでなく、実習生が文化的な障害を感じないよう配慮することが大切です。
たとえば、宗教や食文化に関する理解を深め、職場内でその多様性を尊重する環境を整えることが求められます。また、実習生が日常生活や仕事上の悩みを相談できる窓口を設け、困難に直面した際に早期対応が可能な体制を構築しましょう。このような全方位にわたっての支援は、実習生が安心して働ける基盤を作ります。
職場環境と生活環境の改善に向けた取り組み
過酷な労働環境や生活環境は、技能実習生の健康や士気に深刻な影響を与えます。企業は、労働時間の適正化や十分な休暇の付与を徹底し、働きやすい職場環境づくりをすることが必須です。
また、生活環境の改善も重要なポイントとなります。たとえば、清潔で安全な宿舎の提供や適切な生活費の支援をおこなうことで、実習生が安心して日常生活を送れる環境を整えることが可能です。さらに、健康診断やメンタルヘルスサポートを定期的に実施し、実習生の健康を守る仕組みを構築しましょう。
まとめ
技能実習制度には課題が多く残されているものの、企業が積極的に改善に取り組むことで、実習生の権利を守り、より良い労働環境をつくることが可能です。透明性のある雇用契約の徹底、文化や言語に配慮したサポート体制の強化、職場と生活環境の改善は、すべて実習生の尊厳を守るために欠かせない要素といえます。
これらの取り組みを実践すれば、技能実習生が安心して働ける環境を実現し、制度の健全な運営を支えることができるでしょう。そして、このような姿勢が、実習生と企業双方にとって実りある成果を生むカギとなります。
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