コラム
【徹底解説】特定技能「介護」の事前準備や要件、流れとは?外国人雇用のメリットと注意点
特定技能
高齢化社会のなか介護需要は高まり、介護現場の人材不足は加速しています。そこで特定技能「介護」の在留資格を取得している外国人の受け入れを検討している企業が増えています。
外国人が特定技能「介護」を取得するには満たすべき要件があり、受け入れる企業側にも満たすべき条件があります。
この記事では、特定技能「介護」の業務内容から制度の背景、試験内容や受け入れ企業側が満たすべき基準などを解説します。外国人の受け入れを検討している担当者は、スムーズな受け入れができるように参考にしてみてください。
目次
【特定技能】介護とは?
特定技能とは、生産性の向上や人材確保のために尽力しているにもかかわらず、人材確保が困難な介護分野を含む14分野において、一定の専門性と技能を持つ外国人の受け入れが可能となる制度です。
受け入れ対象となる外国人は、「介護技能評価試験」と「日本語能力試験(N4以上)」または「国際交流基金基本語基礎テスト」さらに「介護日本語評価試験」という2つの日本語試験に合格し、特定技能「介護」を取得して入国してきた人です。最長5年間、介護事業所で介護士や看護助手として働けるようになります。5年経過したら帰国しなければいけませんが、その間に国家資格である介護福祉士を取得できれば、在留資格を「介護」に変更して、5年以降もそのまま働くことが可能となります。
業務内容
特定技能「介護」の業務内容は、身体介護とそれに関連した支援業務です。具体例としては、日常生活支援、食事・排泄・入浴の介助、レクリエーションの企画、リハビリテーションの補助、施設内の掲示物の管理などです。ただし、清掃や調理の業務のみは認められていません。
厚生労働省によると特定機能「介護」の取得者が働ける代表的な対象施設は以下のとおりです。
- 地域福祉センター
- 労災特別介護施設
- 介護老人保健施設
- 介護医療院
- 病院や診療所
- 障害者支援施設
- 児童福祉関係の施設や事業
- 一部の特別養護老人ホームなど
(参考元:厚生労働省「技能実習「介護」における固有要件について」)
訪問介護など訪問系のサービスは、現在はまだ認められていませんが、2024年6月19日の有識者検討会で、25年度を目標に解禁する方針が決定されました。
雇用形態と受け入れ人数(事業所)
特定技能外国人の雇用形態は、フルタイムでの直接雇用が原則です。派遣やアルバイトなどの雇用形態は認められていません。
労働時間や報酬などの労働条件も、常勤日本人と同等以上と決められているので注意してください。
日本人の雇用に大きな影響を与えないように、特定技能「介護」を取得した外国人の受け入れ人数には上限が設定されています。事務所単位で介護は、特定技能1号に該当するため、日本人等の常勤介護職員総数(雇用保険非雇用保険者の総数)を上限と設定されています。
(参考元:厚生労働省「介護分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する指針」に係る運用要領」)
【特定技能】介護は、人材不足対策で新設された制度
日本では、少子化が進行し一部の業界では人手不足が問題となっています。厚生労働省は、介護分野の人手不足も深刻で、多くの介護事業所も介護人材の確保に苦慮している状況であるという報告をしています。
特定技能は、人手不足を解消すべく2019年4月に新設された制度です。
【特定技能】介護の試験と要件
特定技能制度は、即戦力となる外国人を受け入れるために制定された制度です。そのため取得希望者は、3種類の試験に合格し、企業の希望を満たす技能と日本で働くことができる日本語能力を持っていることを示さなければなりません。
【特定技能】介護の試験は3つ
特定技能「介護」を取得するには、以下の3つの試験に合格する必要があります。
- 介護技能評価試験:一定以上の専門性と技能を持っていて、介護現場で即戦力として働くことができるのかを評価する試験
- -1国際交流基金日本語基礎テスト:日本語で生活に支障がない程度の日常会話ができるかを確認する試験
-2日本語能力試験(N4以上):日本語を母国語としない人の日本語能力を測定する試験
※②-1、②-2のどちらか一方 - 介護日本語評価試験:介護現場で必要となる日本語能力を確認する試験
試験免除になる要件とは?
特定技能「介護」の取得には、さきほど紹介した試験が免除されるケースがあります。
「介護福祉士養成施設」を修了
介護福祉士養成施設の修了者は、介護現場で即戦力となる介護技能と日本語能力がある人物であるとみなされ、上記で紹介した試験に合格しなくても特定技能「介護」を取得できます。
ただし、介護福祉士養成施設入学前に、日本語教育機関で6ヶ月以上、日本語教育を受けなければ入学できません。
「技能実習2号」良好に修了
介護分野の技能実習2号を問題なく終えられた方は、どの介護現場でもすぐに働ける介護技能と日本語能力も持っていると認められます。そのため、上記で紹介した介護技能評価試験と日本語能力試験が免除となり、特定技能「介護」に移行することができます。ただし、国際交流基金日本語基礎テストもしくは日本語能力試験(N4以上)のどちらかには合格しなければいけません。
良好に修了した方とは、技能実習2号の定められた期間(2年10ヶ月以上)を問題なく修了した人のことです。さらに、以下の項目のいずれかを満たした人となります。
- 技能検定3級合格者
- ①に相当する技能実習評価試験の実技試験の合格者
- 実習実施者等が作成した技能実習に関する評価調書で実習生として業務態度や出勤状況が良好であったことが確認できた人
もちろん、法令遵守意識が高い人間性が認められることも重要な要素となります。
EPA介護福祉士候補者として就労・研修に適切に従事
EPA(経済連携協定)介護福祉候補者は、厚生労働省が定める受け入れ実施に関する指針に基づき、介護福祉養成施設と同等の体制が整備されている介護施設で、介護福祉士取得を目指して就学・研修を4年間受ける外国人です。EPA介護福祉士候補者として就労・研修に適切に従事した人は、試験を免除され特定技能「介護」に移行できます。
就労・研修に適切に従事するとは、日本の法令遵守意識が高いことに加えて、以下の2点を満たすことを指します。
- 直近の介護福祉士国家試験の結果通知により、合格基準の5割以上の得点をあげている
- すべての試験科目に得点がある
上記2点を満たしているEPA介護福祉士候補者は、試験を免除され特定技能「介護」に移行できます。
なお、介護福祉士を取得した場合は、在留資格「介護」に移行可能です。
介護業界におけるEPAとは、日本・フィリピン・ベトナム・インドネシアの間で終結された経済連携協定を指し、人材交流もこの協定の一環です。この制度は、締結国同士の連携強化を図ることが目的であり、日本の介護業界における人材不足を補うためのものではありません。
【特定技能】介護:申請書類
特定技能「介護」の申請は、1年もしくは6ヶ月か4ヶ月ごとの更新が必要で、最長で通算5年まで延長できます。就労者と受け入れる企業が申請しなければいけない書類は、以下の通りです。
「特定技能外国人の在留諸申請に係る提出書類一覧・確認表」
紹介した一覧・確認表に記載されていない書類の提出が、求められることもあるため注意してください。
特定技能介護以外の在留資格はなにがある?
外国人を介護職員として受け入れるときに、特定技能介護以外に利用できる3つの資格を紹介します。
【在留資格】介護
在留資格「介護」は、介護施設で働く外国人を受け入れるために作られた制度です。取得難易度が高く、専門学校や大学の介護福祉士養成施設を卒業し、毎年1月の最終日曜日に実施(2023年も2024年も同日程で実施)されている介護福祉士の国家試験に合格して取得しなければいけません。また、日本語能力試験のN2以上の日本語能力も求められます。そのため、該当者が少なく採用は難しいといわれています。
その代わり、在留資格「介護」を取得すれば、特定技能「介護」では認められていなかった家族も帯同でき、在留期間の上限もなく更新可能です。す。また、訪問介護など訪問系サービスを提供している事業所にも従事できるため、幅広い業務に就くことができます。
外国人が介護福祉士試験の受験資格を得る方法は、介護福祉養成施設を卒業する以外にも前述した「EPAルート」のほかに「実務経験ルート」があります。実務ルートは、介護事務所で3年以上働いた方(従事日数540日以上)が、「実務者研修講座を受講」もしくは「介護職員基礎研修」と「喀痰吸引等研修」の両方を修了している場合に、していれば受験資格を得られます。2020年4月から、実務経験を積み介護福祉士の資格を取得した方も、在留資格「介護」への移行対象となっています。
(参考元:厚生労働省「介護福祉士資格を取得した外国人の方に対する在留資格「介護」の付与について」)
【技能実習】介護
技能実習「介護」は、日本から他国へ技能移転による国際貢献を目的とした制度です。外国人の技能実習生は、入国後に日本語と介護の講習を受けてから介護事業所に受け入れますが、未経験から介護技能を教えるため、介護現場で働けるようになるまで時間がかかるケースが多いようです。また、技能実習生は、実習先の企業で働くことを条件に日本への滞在を認められているため、仕事に不満があったり他の仕事に就きたくなっても原則転職することはできません。
入国1年目は「技能実習1号」として実習を受けて1年後に技能検定の試験に合格したら「技能実習2号」として2年、さらに技能検定3級に合格すれば「技能実習3号」として2年と最長5年間滞在可能です。実習期間中に、介護福祉士の資格を取得できれば、在留資格「介護」に変更して日本で5年以降も引き続き働くことができます。
(参考元:厚生労働省「外国人」技能実習制度について)
2024年3月に技能実習制度は廃止され「育成就労制度」に変更されることが決まり、2027年までに施行される見通しです。
<育成就労制度についてくわしくみる>
【2024年最新版】外国人技能実習生制度が廃止!新創設「育成就労制度」とは?企業への影響について
【最新版】新制度「育成就労制度」とは?技能実習生・特定技能実習制度の改正の概要
育成就労制度創設の背景と技能実習制度との違い
技能実習制度は日本から他国への技能移転による国際貢献を目的としたものでしたが、実際は低沈金労働者の確保として利用されているケースが多く、賃金未払いや長時間労働などの人権侵害が発生しています。この状況を改善すべく日本政府は、技能実習制度を発展的に解消し、人材育成と確保を目的とした育成就労制度を創設することを決定しました。
技能実習制度と育成就労制度の違い
就労育成制度の詳細はまだ明らかになっていませんが、公表されている概要と企業への影響について説明します。
技能実習制度と育成実習制度の主な違いを以下の表にまとめました。
育成就労制度 | 技能実習制度 | |
目的 | 人手不足分野における人材の育成・確保 | 人材育成を通じた国際貢献 |
在留期間 | 最長3年 | 最長5年 |
転籍 | 一定の条件を満たせば可能 | 原則不可 |
日本語能力 | 日本語能力試験N5レベル | 日本語能力試験N4レベル |
技能実習制度では、受け入れ先の事業所が倒産してしまった等のやむを得ない理由がない限り転籍は認められていません。一方、育成就労制度では、同一企業で1年以上の就労実績や技能実習評価試験に合格していることなどの条件を満たせば同一分野への転籍が可能です。
育成就労制度創設による企業への影響
育成就労制度への移行は、企業に以下のような影響を及ぼすことが予想されます。
- 日本語能力の高い人材を長期間確保
- 幅広い業務が可能な人材の確保
- 渡航費や管理費などのコスト増
- 転籍による人材流出リスク増
- 外国人の管理・監督体制の強化による負担増
【特定技能】介護のメリット・デメリット
在留資格「介護」は、希望すれば期限の制約なく日本で働くことが可能で、就労に関する制約も少ないですが、介護福祉士試験に合格することが取得条件となっています。外国人にとって難度が高い制度です。また、技能実習は制約が多く受け入れる事業所によっては難しいケースも少なくありません。そのため、支援計画に基づいた外国人の支援義務はありますが、訪問サービスを扱っていない事業所にとっては、特定技能「介護」は、利用しやすい制度といえます。
ここでは、特定技能「介護」を取得した外国人を受け入れるメリットとデメリットを紹介します。
メリット
特定技能「介護」のメリットは以下のとおりです。
- 民間の人材紹介会社を通して採用活動ができため、コスト削減や希望人材を見つけやすい
- 新設事業所でも外国人材を雇用できる
- 事業所に配属後、すぐに人員配置基準に含められる
- 常勤介護職員と同数まで外国人介護人材を受け入れられる
- 夜勤の従事可能
- 報告の負担が軽い
デメリット
特定技能「介護」のデメリットは以下のとおりです。
- 外国人本人が職場を選べるため、他の事業所に転職してしまうリスクがある
- 労働期間の上限が5年と決まっている
- 訪問介護サービスを提供している事業所では受け入れができない
- 外国人支援を外部の登録支援機関に委託する場合、コストが発生する
受け入れ中に社会福祉士試験に合格し資格を取得すれば、在留資格「介護」に移行できるため、労働期間上限は解消されます。
受け入れる事業所側が満たすべき基準と義務
特定技能「介護」制度を利用して外国人を受け入れるためには、満たすべき基準があり、受け入れた外国人が日本で生活するために支援を実施する義務もあります。また、特定技能制度が適切に運用されるよう14分野ごとに設置された協議会への入会も必要です。
【受け入れる事業所が満たすべき基準】
- 外国人と結ぶ雇用契約が適切であること
- 受け入れ機関自体が適切であること
- 外国人を支援する体制があること
- 外国人を支援する計画が適切であること
・雇用契約が適切であること:特定技能外国人の報酬や労働時間などを日本人と同等以上にすることなど。
・機関自体が適切であること:法令を遵守し、禁固以上の系に処せられた者などの欠格事由に該当しないことや、保証金の徴収や違約金契約をしていないことなど。
・外国人を支援する体制があること:外国人がスムーズに働けるよう、職場や日常生活上の支援ができる体制を整えていなければいけないこと。
・外国人を支援する計画が適切である:外国人を支援する適切な計画書を作成し、出入国在留管理庁に提出する必要がある。
【受け入れる事業所の義務】
- 外国人と結んだ雇用契約を確実に履行すること
- 外国人への支援を適切に実施すFること
- 出入国在留管理庁及びハローワークへの各種届出
(参考元:出入国在留管理庁「特定技能ガイドブック」)
特定技能外国人10項目の支援計画
特定技能制度では、受け入れた外国人が日本で生活できるように10項目が定められています。支援計画書を作成し、入国、出国、就労、生活における支援内容や実施方法などを記入しなければなりません。支援計画書に基づいた支援をおこなうことが義務付けられています。
事業所だけで対応することが難しい場合は、外部の登録支援機関に委託することが認められています。外国人材を探す際に、人材登録会社を利用した場合は、人材登録会社が登録支援機関になっている場合があるので問い合わせしてみてください。
- 事前ガイダンス
- 出入国する際の送迎
- 住居確保・生活に必要な契約支援
- 生活オリエンテーション
- 公的手続き等への同行
- 日本語学習の機会の提供
- 相談・苦情への対応
- 日本人との交流促進
- 転職支援(自己都合退職以外)
- 定期的な面談・行政機関への通報
分野別協議会へ入会
特定技能制度を利用して外国人を受け入れる事業所は、分野ごとに設置された協議会に参加が義務付けられています。協議会は、分野所轄省庁、受入れ機関、業界団体その他関係省庁で構成されています。協議会では、制度趣旨周知やコンプライアンスへの啓発、人手不足状況の把握・分析などがおこなわれています。
分野別協議会への入会は、初めて在留資格「特定技能」で外国人を受け入れてから、4ヶ月以内に入会するよう定められています。入会を忘れないように、初めて特定技能を持つ外国人を受け入れたときに、入会手続きも済ませてしまうことをおすすめします。
(参考元:出入国在留管理庁「特定技能ガイドブック」)
まとめ
介護の人材不足解消を目的に利用することができる特定技能「介護」について紹介しました。在留資格「介護」や技能実習「介護」に比べると、制約が少なく利用しやすい制度です。これから外国人の介護人材の受け入れを検討している事業所担当者は、知りたいことを整理しておくことをおすすめします。